36歳の焦燥は犬も喰わない

チェーンの居酒屋で久しぶりの友達とビールを飲んでいた。

隣の席では学生達が手を叩いて目をキョロキョロさせながら大声で笑っている。

色とりどりの髪の毛の若者がギョーギョギョ、キャーキョーと甲高い声を出すその様は、まるでジャングルの中で求愛し合う鳥達のようだ。

ジャングル行ったことないからよくわかんないし、きっと僕らも同じように品がない若者だったから言えたもんじゃない。

メニューを読むフリしながら共通の話題を探すも何も思い浮かばない。

そうだ、今日は靴を洗う日だった。

スエードの靴ってどうやって洗うんだっけな。

そんな今考えてなくてもいいことが頭を過ぎる。

とってつけたような笑い話と使い古した昔話でやり過ごして、3杯目のビールを飲み干して笑って解散した。

 

なんともつまらない気分になって、自宅の一駅手前で降りて音楽を聴きながら、ストロングゼロを呑む。

飲み屋が並ぶ路地をウネウネと歩きながら何か面白いことを探している。

誰かが遭遇したら面白いのになって。

誰かって誰だろうって考えて、なんだか大人になってしまったなと少し落ち込んでしまった。

 

狂乱の季節があっという間に終わり、あっという間にみんな結婚し、父になる奴も増えてきた。

会社では数字に追われ、家に帰れば奥さんの機嫌を損なわないように努め、夜なって子どもが散らかした部屋を片付けて、そこからまた仕事したり、あるいはほっと一息ついたり。

きっとみんなそんな感じだろう。

義務に努める日常、それも大人の役割であり、決して不幸ではないと頭ではわかっている。

楽しいことは十分にやってきた、家族の為、家族の為と心と折り合いをつけたはず。

実際に家族は自分の命なんかよりも大切だ。

子どもなんて手放しに涙が出るほど可愛い。

でも疲弊しているのも事実だ。

その証拠があの夜のつまらない飲み会だ。

ジョークや笑い話や笑い合うことだけが楽しいわけではない。

心躍るエモーショナルな瞬間の連続が欲しい。

友達の疲れを隠し取り繕う様子は胸が苦しくなる。

他人じゃないから表情と雰囲気で全部わかる。

だから「超疲れた、ウォー!」って叫び合う方が健全ではないだろうか。

まさにその叫び合いこそエモくて、「超疲れてるから全部ひっくり返すくらい今日はウォー!」ってなったらもっとエモい。

なんなら泣いてもいい。

怒鳴り散らしたってかまわない。

僕のことを殴ってもいい。

殴り返すけど。

家族を言い訳にハートから目を逸らすのは簡単だけど、きっとそうやって思考停止して想像力もセンスもないくせに常識人ぶる退屈な小汚いおっさんが出来上がるのだろう。

自分の人生を振り返って後悔した時に、それを家族のせいにしたら家族もたまったもんじゃない。

みんな毎日うまくいかないことだらけなんだから、カッコつけることもない。

有名な台詞を借りると「俺たちは最初からカッコよくなんてないしな」だ。

僕は感情を吐露し合って肩組んで背中押し合うのが友達だと思ってる。

比較し合う存在じゃない、競い合う相手じゃない。

僕たちは今、諦めて折り合いつけてあれだけ忌み嫌ってきたつまらない大人になるか、自分の人生も家族の全部まとめてあれもこれもやって満足する為に生きてやる決意するか、どちらか選ぶ分岐点に立っているような気がする。

前者は簡単だけど死んだも同然、後者は疲れるし超ハードでクリアする課題は山積みだ。

ところで昭和の男達って平気で3日くらい家に帰ってこなかったらしいけど、なんか健全な気がする。

そもそも辛抱強くないし勝手気ままな生き物なのに無理してるから離婚率がヤバいことになってるんじゃないかな。

奥さん=罰ゲームみたいなっている世間の現状、なんかおかしいと思うんだけど女性達はそこらへんどう感じてるいるのだろうか。

結婚は契約じゃない。

 

正月に旅行に行って、到着した国の税関審査を受けている時に、ふと隣で審査を受けている人を見たらKREVAだった。

予期せぬことは平気で起きる。

写真は淑徳の斎藤工ことアキラ。

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ハヤブサマガジン 2005年10月活動開始。 フリーマガジン「ハヤブサマガジン」を日本全国のフットサルコート、スポーツバーなどに配布。 vol.7をもって活動停止。2013年、ウェブマガジンとして活動再開。ブログは日常の話です。