27歳かそこらの時に、「宮崎あおい」というタイトルの短編を書いて、何かの新人賞で落選したことがある。
悲観主義者の青年と自信過剰な悪魔が屁理屈とむちゃくちゃ暴論を繰り返し、どっちが宮崎あおいのことが好きか主張し合うというだけの話だ。
悪魔とか神様とか、絶対的な存在が隙だらけでダサくて人間臭かったら面白いだろうなと思って書いた。
たまに読み返しては書き直して、いつか友達に読んでもらえるように納得できる出来になったらいいなと思っている。
そんな日が来たらそれはそれで何かが終ってしまったような気がして、なんだかつまらないけれど。
友達の弘一がまた何かを書き始めた気配を出している。
仲間の中で物語を書くなんてくだらないことやってんのなんて僕と弘一くらいなもんだから嬉しい。
大人になるとみんなが毛嫌いするような「優しさの正体とは」みたいな小難しく、かつ、一銭にもならないような超どうでもいいテーマについて弘一とは真剣に話せるので、僕の友達だ。
お互い親になったのにいまだにセンチメントなサムシングを言葉に換えるなんて無駄な作業しているなんて、ほんと最高だよ。
ポップコーンに5時間も並ぶ感性を持って生まれてきたほうが、もうちょっと生きやすかったのかもしれないけれど。
弘一が星になった時、法名は「感傷的天然縮毛無愛想」にしてくれってお坊さんに話をつけるつもりだ。
安らかに眠れ。
先日、夜中の1時前にマンション前の階段に30歳前後の女性がぐったりと寝込んでいた。
ヴィヴィアンのハンドバッグは口を開けて倒れていて、アイフォンとセリーヌの財布、そしてたくさんの錠剤が地面に落ちていた。
錠剤。
男ならどうでもいいけど、こんな時間にこんな状態で女性が路上で寝てるのはちとマズい。
「おねーさん。・・・おねーさんおねーさん。おねーさんおねーさんおねーさん。・・・おねーさん!!起きて!!」
けっこうデカめな声で呼んでも応答なし。
死んでんのかなと思って、近づいて匂いを嗅いでみても酒の匂いがしない。
「おねーさん、警察呼びますよ。いいですね!?」と耳元で喚くと、お姉さんは超小声で「・・・けいさつ・・・呼んで・・・」
それ早く言えよと思いながら、警察に電話。
警察に電話しながら、地面に落ちているハンドバッグの口から出ている白い袋に抗精神病薬という文字が印刷されているのが見えた。
5分後、チャリに乗った若い警官が到着。
「ご通報ありがとうございます。おねーさん起きてー!起きてー!ここ道だよ!家じゃないよー!で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです」
その後、6人くらいの警官が順々にやってきた。
「ご通報ありがとうございます。おねーさん起きてー!お酒飲みすぎちゃったのかな?で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです」
「ご通報ありがとうございます。おねーさん起きてー!もう夜中だよー!電車ないよー!で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです」
「ご通報ありがとうございます。おねーさん起きてー!あれ?なんか薬飲んでるのこれ?で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです」
「ご通報ありがとうございます。な・る・ほ・ど・で・す・ね、で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです」
「ご通報ありがとうございます。いやー、夜にTシャツだとまだちょっと寒いでしょ。で、お兄さんはお姉さんと面識は?」
「いや、ないです。すいません帰っていいですか?」
足元には抗精神病薬をオーバードーズして道端でブラックアウトした女性。
同じ質問を続ける警官達。
コンビニで買った淡麗はとっくに温くなっていた。