「共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破り当選確実となりました」
ラジオからアメリカ大統領選挙の結果が聞こえてきた時、僕は横になりながら女医さんのおっぱいを頭頂部で感じていた。
1ヶ月程前に奥歯に詰めていた銀のかぶせが取れてしまったので、矯正した時以来、7年ぶりくらいに歯医者に行くことにした。
今まで行ったことがない歯医者にしようと思いググっていると、スタッフが美人ばかりのNという歯医者さんを見つけたので5秒で電話して予約した。
N歯科に入るとホームページ通りスタッフの皆さんは美人ばかりだったで、僕は思わずいつもよりも良い声で「予約していた桑原です」とキメてやった。
待合室で待っている連中が男性ファッション雑誌を鵜呑みにしているような間抜けばっかだったけど、この場においては僕が着ている銀杏BOYZの「死ネ!」とプリントされたTシャツよりも彼らの服装が正しいよなと思い、恥ずかしくなって腕組みしてしまった。
名前を呼ばれ、寝台イスに背中をつけて座っていると、巨大なツケまつ毛を付けた女医さんが「よろしくお願いしま~す」と甘い声で挨拶してきた。
僕の意識は車エビも乗せらせそうなくらい巨大なつけまつ毛よりも、女医さんのおっぱいの大きさに集中していた。
目を強く二重にして「よろしくお願いします」といつもより低い声で挨拶すると治療が始まった。
女医さんから漂ってくる良い匂いが気を取られていると、歯を削った時にくるあの神経の痛みが突然ズキューンときて両足がビンッとなってしまった。
「ごめんなさい。もうちょって麻酔足しますね」と女医さんが顔を近づけてきたその時!
女医さんのおっぱいが僕の頭頂部に当たったのだ。
しばらくおっぱいが僕の頭頂部に当たり続けていたのだ。
それから家に帰るまでのことはよく覚えていない。
翌日、女医さんとおっぱいの話をGにすると、Gは得意気になって言った。
「それわざとやってるらしいよ。男っておっぱい当たると大人しくなっちゃうんだって」
たしかに。
たしかに、そうだ。
ズキューンときて両足がビンッとなってしまったあの痛みも、おっぱいが当たってからどこかに行ってしまった。
それ以降、僕は週1でN医院に通っている。
寝台イスの頭の方にズリ上がり過ぎて、「桑原さん、もう少し下がってくださいね~」と言われた時はドキっとしたが、「全然そういうんじゃなくて、上に上がった方が照明的にそちらがやりやすいと思っただけなんで別に大丈夫です」という表情をメイクしたのでたぶん大丈夫だろう。
Make America Great Again.