夜中の街を一人で音楽を聴き酒を呑みながら彷徨い、深呼吸すると春が迫ってきていることを確かに知る。
先日、「剛ちゃん来れないから大が来い」という真上から嬉しい誘いがあり、門前仲町の幼馴染の新年会に行ってきた。
1月の最後に最高に楽しいお酒を呑むことができた。
みんな的には普通だったかもしれないけど、僕は去年の年末はあんまり楽しい飲み会がなかったから最高だった。
また別の日に思った。
仕事でも遊びでもこの歳で初めての人と出会うと「この人は本当は何者なのだろう?」と相手が探っている気配に気が付いてしまい少し気疲れするなと。
僕の小話と笑いの裏には何もない。
あったとしても「次はウーロンハイにしようかな」くらいだ。
人の本性を探り出すとキリがない。
善と悪、闇と光のスパイラルが幾重にもなっている人間の腹の中を探るなんてもはや愚かな行為だと思う。
言葉と行動だけがその人、それでいいじゃないか。
たまに、「大さんって実は根暗でしょ?」とか宝物を見つけた子どものように得意気に言ってくる人がいた。
実は冷たそうとか、実は寂しがり屋とか。
大殺界でお馴染みのババアと同じ手口だ。
根に闇や弱さがない人などいるものか。
そういう人には目くじら立てて僕の何がわかる?と問い詰めるような幼稚な真似はせずに、「見る目があるね!」と言って気分よく帰ってもらうことに努めるばかりだ。
僕は純文学を読まなくなったのもそれが理由だ。
人の絶望や心の起伏を動物や天候に比喩して何の意味があるのか。
そのつまらない話はいつ終わるの?という気分になる。
僕の文章も「そのつまらない話はいつ終わるの?」という気分になると親族からよく言われるので人のことは言えない。
今年は別れの年だ。
長年に乗っていた車がいなくなり、長年通っていた恵比寿の古着屋が閉店した。
その店では踊り場ソウルのハッシーと遭遇したこともある。
買い物した帰りにみちよしと遭遇したことも2度ほどある。
とにかくそれくらいしょっちゅう行っていた店だった。
閉店の最後の10日間は5回くらい店に行った。
閉店2日前の夜。
奇妙な帽子を見つけたので被って鏡を見たら、ただの気持ち悪い奴がうつっていた時だった。
「あの、すみません」
端正だけどなんか垢抜けないメンズノンノを最後のページまで熟読しているようなイイ奴(皮肉ではなく)そうな男が女性の店員さんに声をかけた。
その店員さんは僕のお気に入りの店員さんで、和風美人でおっぱいが大きいという、昔どこかで出会った気がするタイプ女性だった。
弟も「ガチ可愛いし、(おっぱいおおきいね)」と小声で絶賛するくらいの女性だ。
男は服の話やいつ店が閉まっちゃうのかという話や、これからどこか別の店で働くのかという質問を女性にしていた。
ずいぶんグイグイいくなこのヤロウ。
僕はサイズ的に履けもしないジーパンを物色するフリをしながら二人の会話を聞いていた。
「えぇ、今週いっぱいで・・・寂しくなりますね・・・はい、そうです。・・・いえいえ、今までありがとうございました。・・・いえ、決まってないんですよ・・・」
閉店前で忙しいんだからあんまり長く店員さんを掴めるなよな。とチラッと男を見ると、あれ?男は覚悟を決めた顔をしていた。
わかる、僕にはわかる。
男が腹をくくった顔はわかる。
こいつ、まさか!
「あの・・・これで会えなくなっちゃうんで電話番号教えてください」
言った―!
こいつ言いやがったー!
僕が3年位心で思ってたけど絶対に言えないやつ言った―!
僕の耳は真っ赤になった。
サイズ的に絶対に着られないギャルソンのジャケットを鏡に当てて、鏡越しで2人を見た。
女性は「いえいえ、そういうのはあれなんで」と笑顔で断っていた。
ここまできたら僕は男を応援する。
引くな、絶対に引くな。
ここまできたら「迷惑なんで帰ってください」言われるまで攻めてから散れと男を心の中で応援した。
男は何やらゴニョゴニョと告白レベルのことを口にした。
「・・・気になってたんで・・・最後なんで・・・そういうんじゃなくて・・・はい。いや、・・・はい。全然変なアレじゃなくて・・・今まで会いに来てたっていうか・・・ゴニョゴニョ」
気が付けば僕は両手にサイズ的に絶対に着れないジャケットとジーパンを持って仁王立ちで二人を見ていたことに気が付き、すぐに背を向けた。
会話が途切れた。
そっと振り返り見ると、女性は周りを気にしながら男の携帯に電話番号を打ち込んでいた。
キター!!
やったなメンズノンノ。
正直悔しいけど、男気を見せたお前の勝ちだ。
僕は奇妙の帽子を被ったままだったことを忘れたまま感極まっていた。
気分が良くなったので、野村さんに似合いそうなNATALのブルゾンを土産に買って帰った。