ちょうど10年前。
カンボジアの地雷撤去の為に活動している学生団体と何かの縁で知り合い、少しだけ関わらせてもらったことがある。
その時に窓口になったTちゃんという愛嬌がある気さくな女の子と馬が合い、大学生という存在を心底馬鹿にしていた僕にとっては考え方が変わる出会いになった。
Tちゃんに誘われて、その団体の年間報告会のような行事に出席することになった。
パーティー的なノリだと思って、B-BOYらしい恰好で近くの居酒屋で軽く呑んでから会場入りしたら、企業関係のスーツの人が多く、いわゆる「ちゃんとしたやつ」だったので急いでミンティアを口に入れたことを覚えている。
Tちゃんの近くに座ると、Tちゃんに「彼氏です」と色黒の目がデカい青年を紹介された。
「大さんですよね?ちわっす」
「はじめまして」と答えて、一息つきながら周りを見ていると、なんだか横から視線を感じる。
Tちゃんの彼氏が僕のことをチラチラ見ているのだ。
僕は男性に見られるが嫌なので、なんだこのガキと思い、彼に背を向けた。
それから数年が経ち、その団体とは関わらなくなったけれど、就職したTちゃんともたまに連絡を取り合っていた。
そしてどうゆう経緯でそうなったのか全く覚えていないのだけど、その彼氏と僕は遊ぶようになっていた。
ある冬、僕は友達と新潟に泊まりでスノーボードに行っていた。
その旅に彼を誘うと、彼はひとつ返事で「行くっす」と一緒に行くことになった。
晩になりみんなで酒を飲んでると彼の携帯が鳴り、「ちょっとすみません」と言って外に出ると2時間戻ってこなかった。
なんかあったのかねとみんなで話していると、彼は口をヘの字にして部屋に戻ってきた。
「彼女と別れました」
男女のことだから事情は今でも知らないし聞きもしないし、彼も言わないけれど、とにかくTちゃんと彼は別れることになった。
それでもTちゃんが僕の友人ということは別に変わりはないことなので、たまに近況を連絡し合っていた。
恋人と別れたところで、僕にとっては気さくで愛嬌がある歳が離れた友人であることは変わりない。
そしてなぜか彼ことケントとも変わらずどころか、より遊ぶようになった。
それからまた数年経ち、遊びの場にケントが天使のような可愛らしい女の子を連れてきた。
「友達っす」
そう言うケントの顔を見て僕はすぐに「この野郎、惚れてるな」とわかったし、実際僕もその子に惚れた。
正直言うと、友達の彼女を見て、直感的に「この子好きだな」と思うことなんてほとんどない。
時間をかけて人となりを知って、馴染んで好きになることが通常だ。
だけどその子のことは一目で好きになった。
性格も知らないし、生い立ちも知らないし、何を考えているかも知らないけれど、笑顔がとても可愛かった。
それだけだ。
僕は理屈よりも笑顔の可愛らしさを信じる。
あまりに可愛かったのでケントのことが本当にムカついたけど、「ケント、明日にでも結婚しろ」と言った。
「いや、友達っすから」とニヤついた数年後の2016年、2人はめでたく結婚することになった。
2人の結婚式が終わった後、船上パーティーが行われた。
「司会者の方、すみません。あの~お名前は」
「桑原です。今日はよろしくお願いします」
「あっ、よろしくお願いします。もうすぐ新郎新婦もこちらに来るようなので」
「そうですか。わかりました」
「ところで、新郎と桑原さんはどういったご友人で?」
「・・・なんて言えばいいのか」