初対面のファーストコンタクトで本性まではわからないけれど、その人の性格の一端に触れることができる。
特に挨拶の仕方はモロにその人となりが出てしまうと僕は思っている。
例えばエレベーターの中。
相手の目を見て少しほほ笑んで「おはようございます」と言える人と言えない人がいる。
「おはざっす」でも「おはっす」でも「ざっす」でもなく「おはようございます」だ。
そんなのは我々シティボーイとしては当然の嗜みだけど、できない人があまりにも多い。
まさか人にテレる歳でもあるまいし、みっともないしダサい。
正直、挨拶できない人間を見下して優越感に浸っているのが僕の本性だけども。
1年ちょっと前に芝という街に引っ越してきた。
今住んでいるマンションの住人は見事に挨拶できる人ばかりで毎日感動する。
実家のマンションの家賃はこのマンションの5倍くらい高いけれど、まともな挨拶できる人間がマジで10人に1人くらいしかいない。
横柄な態度の田舎臭いアホばっかりだ。
投資に失敗してベーリング海に蟹を獲りに行くことになればいいのに。
なので、今住んでいるマンションの皆さんのシティな態度には感動している。
小学校低学年の男の子なんてエレベーター降りる時に、わざわざ体を反転させこちらに体を向け70度くらい頭を下げて「さようなら!」と挨拶してきた。
僕もおもわず「さようなら!」と深々と頭を下げてしまった。
なんて育ちの良い子だろう。
もしも彼がどっかの安いガキにイジメられてたら怒鳴り散らして、そのイジメっ子の将来を丸ごと否定する罵声を浴びせてやろう。
思春期の女子中学生から、ハーレーに乗っているおじさんまで、みんなハツラツと挨拶をしてくれる。
僕ももちろん内臓から脊髄までアーバンを自負しているので、120%の微笑で挨拶を返すのだけど、問題は相手が20代前半の男性だった場合だ。
僕が最も苦手な、まだ無駄な自意識が少し残っているやっかいな世代だ。
これがその世代の女性なら120%どころか、何かの期待も込めて280%の微笑で、微笑の枠をギリで超えない感じの口角の上げ方で挨拶する。
もしかしたら余裕でその枠を超えちゃって、映画「バットマン」のジョーカーみたいに見られているかもしれないが、それは仕方ない。
それが僕だ。
この世代の男性の多くは経験上挨拶をしても「・・・ツス」くらいしか返ってこないので、できることならツイッターに夢中で挨拶するの忘れたという設定で誤魔化したいところだ。
挨拶は見返りを求めない無償の愛ではない。
挨拶は言葉のキャッチボールによるコミュニケーションだ。
だから挨拶が返ってこなそうなヤツには声をかけたくないけれど、西日でできた影さえアーバンな僕としては、先制攻撃するしか道がない。
そして24歳くらいの男性に「こんばんは」とナメられないようにやや低めの声で挨拶してみる。
保険の為に微笑はナシだ。
するとややくたびれた顔の青年が振り返りニカッと笑い「こんばんは、お疲れさまです」と挨拶を返してきた。
微笑の枠を簡単に超えた素晴らしい笑顔で、なおかつ「お疲れさま」まで付け足してアンサーを返してきた。
見事なフックからのアッパーのコンビネーションで僕は完全に負けた。
きっと彼は内心「こいつ様子見で軽く置きにきたな。だったら俺はそのスキに強めなの打ってやったぜハゲ」と思ったことだろう。
「20階です」というアナウンスが「試合終了です」に聞こえた。
話はまだエレベーターの中だ。
ある朝、エレベーターが開くと50歳付近の女性が先に乗っていた。
お互いに挨拶して乗り込むと、一つ下の階でエレベーターが止まった。
すると38歳くらいの女性が乗ってきた。
50歳「あっおはよう。ひさしぶりだね」
38歳「おはよう。全然会わなかったね~」
タメ口だ。
ファッションも雰囲気も世代も全く共通点がない。
38歳「聞いてよ。この前ウエスト、超可愛かったよ!」
50歳「でしょ~。本物の方が全然可愛いよね。」
38歳「全員可愛かった。ジャンプも良かったけど、ウエストも良かった!じゃあまたね!」
1階に到着し、38歳は駆け足で行ってしまった。
ウエストとジャンプ、おそらくジャニーズの話だ。
二人はジャニーズファンなのだろう。
今のやり取りだけで気にあることがたくさんある。
一回りくらい歳が違う女性同士がタメ口で会話するのはどういう関係なのか?
お互いがジャニーズが好きということを知るまでどういうプロセスがあったのか?
そして50歳の女性はジャニーズ歴長そう。
なんにせよ、好きなことを共有できるって最高だよね。
いつかこの二人の女性にジャニーズの魅力を聞いてみたいと思った。
そこから始まるご近所とのホームパーティーってのもドラマティックだ。