空が青過ぎて誰かと何かをしたくなる。
鮮やか過ぎて眩しいので早く夕方になればいいのにと思う。
砂浜から少し先の沖、水面に浮かびながら仰向けになり、ただそれを眺めていると目の端から飛行機が飛んできた。
飛行機はまっすぐと水平線の方に向かってゆく。
ゴォーと聞こえないけど聞こえたような気がした。
昼過ぎなのに満月が薄く佇んでいる。
本当は足がつくくらいの深さだけど、気が付いたら水深2万メートルのところで気楽にプカプカ浮いていたらと想像してみるとやっぱり怖くなった。
砂の上に立ち、くるぶしまで埋まった足を眺めている。
波が打ち寄せる度に少しずつ身体が沈んでゆく。
このままずっとこうしていたら、昔観たヤクザ映画のように首まで砂に埋まってしまうのだろうか。
想像するだけで喉が渇いてくる。
やっぱり怖くなったので砂から足を出した。
友達と渋谷から下北沢から新宿というルートで夜の散歩をした。
隅田川花火大会の日は鐘ヶ淵からスタートして、近所に住んでいる幼馴染も誘って墨田区を適当に散歩していたら、結局花火を3つくらいしか見ていなかった。
夜は心を素直にさせる。
何本目のストロングゼロか忘れてしまう。
自転車で一気に坂を下ると、汗で引っ付いたシャツの中に風が入り込んでヒヤッとする。
そんな瞬間になにかとても良い気分なことを感じたり、頭に過ったりするものなんだけど、坂を下り終えた頃には気配しか残っていない。
とても良い気分のやつだったから無性に寂しくなる。
めちゃくちゃ楽しかった同窓会の翌日に二日酔いで何も覚えていないけど、胸の底からこみ上げてくる楽しさや喜びみたいな感じ。
同窓会に誘われたことがないからわからないけれど。
ヤップヤップ。
夜明け前にうっかり目を覚ましてしまい、なんとなくベランダに出てみると、むっとした熱気が顔に当たる。
東京湾の上にはすでに大小様々な船が行き交う。
若洲公園の風車の向こうの空は赤と紫と群青が混ざり合ってアビリル・ラヴィーンのデビュー当時の髪の毛の色みたいになっている。
ゲートブリッジのライトが朝焼けとともに薄くなってゆく。
下の階の方からイスを引く音が聞こえた。
きっと誰かもこのぬるい潮風を感じているのだろう。
気だるく退屈な路上も、女の子の日焼け止めの匂いと薄い香水の匂いで景気が良くなる。
本当にあの匂いが好きだ。
日陰でひっそりと短い時間をやり過ごす女の子と目が合い、そらすと同時にその子は少し微笑んだ。
きっと週末は腕にトライバル柄のタツーが入った彼氏と海にでも行くのだろう。
逗子の汚い海ではしゃぐのだろう。
トライバルはビキニ姿の彼女の尻をやらしい手つきで撫でまわすことだろう。
僕もトライバルのタツーを腕に彫ろうかなと思った時に信号が変わったのでどうでもよくなった。
そういえばタトーを入れる若者が増えた。
久しぶりに何回目かのラップムーブメントが起きている影響だろうか。
もしもタトーを入れても支障のない生活なら、緑色で競艇の6号艇のTATOOを入れたい面白い。
不利な位置取りでも常に逆転の姿勢だぜという意味だ。
あるいはドンジャラかクレーンゲームのTATOOでもいい。
いつか年寄りになった時、仲間達とラスベガスに行ってノリでそれぞれ好きな何かのTATOOを入れたら素敵だ。
僕が死んだら、親しい友人達は僕の顔を5cm大のサイズで胸の当たりに入れて欲しい。
思春期だし夏なので、親しい友人は誰を指すか言葉にするには照れる。
各々で「俺のことだな」と察して欲しい。
幼馴染の弘一から毎年楽しみにしているミックスCDが届いた。
親しい人から貰うミックスCDには愛の類の想いを感じて嬉しい気持ちになる。
娘のおでこから土と雨上がりと汗と醤油の匂いがした。
僕は毎朝勃起している。
なぜかいつも玄関でカナブンが死んでいる。
こんな夏の始まりのオムニバスだ。