隣の一軒家にMさんという家族が暮らしている。
引っ越しした時にゴミの出し方を教えてくれたのがご主人のMさんだった。
Mさんの家はMさんと奥さんと息子さんの3人で暮らしているようだ。
今の家に暮らし始めてから半年くらいで気がついたことがあった。
Mさんの家族はしょっちゅうお風呂に入っているのだ。
寝室の窓の向こうがMさんの家の風呂場になっていて、風呂場は換気の為に窓を開けているので、水の音がこちらに聴こえてくる。
Mさんの家族は朝早くから夜遅くまでしょっちゅうお風呂に入っていた。
最初はイラついたけど、窓を閉めれば音はあまり聞こえないので、暮らすということはこんなこともあるかと気にしなくなっていた。
風邪をひいて、会社を休んで家で一日中寝込んでいた日があった。
ちょっと寝ては悪い夢を見て目を覚まし、ウーウーと転がりながら何をするまでもなく金玉を握りしめながらボンヤリとしていた。
そんな中、Mさんの家から2時間置きにシャワーの音が聴こえてきた。
風邪の時特有のパラレルワールドに迷い込んでしまったような感覚に気持ち悪くなったことを覚えている。
よっぽど綺麗好きかお風呂が好きなんだなと思った。
突然雨が降ってきたある夏の午後。
ママチャリで急いで家に戻ると、Mさんが傘もささずに植木の手入れをしていた。
笑顔で「雨だねぇ~。」と僕に言った。
自転車を置いてMさんの方を見ると鼻歌でも歌っているかのような上機嫌な雰囲気が伝わってきた。
また別の雨の夜。
スーパーに行こうと家を出ると、またも傘もささずにMさんが家の前に立っていた。
「こんばんは。雨だね。」とまたも笑顔で声をかけてきた。
そんな雨の日に傘をささないMさんと会うことが何度か続いた。
いつもあまり愛想がないMさんのに、雨の日は嬉々として話かけてきた。
いつもボタンシャツと長ズボンを履いてるMさん。
夜中の2時。
また隣からかすかにシャワーの音が聞こえてきた。
僕は眠りにつく前にふと思った。
もしかしてMさんは河童なのかもしれない。
全ての辻褄が合って、納得したので僕は眠った。