風に吹かれた砂が重なり合ってできた幾何学的な模様はどこまでも続いていた。
見渡す限り茶色の景色の中、上空から砂丘の中に灰色の長方形のマークが=の形に平行に2つ並んでいるのが見えた。
上空から一機のヘリコプターが音を立ててマークに向かって降下してきた。
砂が大きく舞い上がり、いくつかの砂丘の形を崩しながらヘリコプターが一つの長方形のマークの真ん中に着地した。
ヘリコプターの扉が開いて、スーツ姿の男が眩しそうに目を覆いながら砂漠に降りてきた。
周りの景色に困惑する男の後ろから、茶髪の高校生カップル、いかついとび職、ケバいOLなど老若男女の人間が次々と降りてきた。
扉から降りてきた人々は困惑しながら、ポケットからスマホを取り出して電波が入っていることに安堵した。
人々はヘリコプターの操縦士を見上げた。
操縦士は降り立った人々を見て、向こうにあるもう一つの灰色の長方形のマークを指を差して、扉を閉じた。
砂をまき散らしながら飛び立ったヘリコプターは1kmほど先にある灰色の長方形のマークに着陸した。
人々はスマホの画面を眺めながらヘリコプターが着地した向こうのマークに向かってそれぞれが歩き始めた。
ある人はゲームに夢中になりながら、ある人はSNSのタイムラインを眺めながら、それぞれがスマホに夢中になりながら、ヘリコプターに向かって歩いてゆく。
たまに前と向きながらフラフラと歩き進む人達。
カチ
何かを踏んだ音がしたのでサラリーマンの男が足を上げると黒い金属部品が砂に埋まっていた。
ドゴォォオオオオン。
男の足元から70度の角度で空に向かって発射された小型ミサイルは、弾頭部分でサラリーマンの男を突き上げて空中で爆発した。
スタート地点の灰色の長方形のマークよりも後ろに、サラリーマンの男のちぎれた四肢や肉片が飛び散った。
その様子に驚きスマホで写真を撮る人、一瞥してまた画面を眺めながら歩き出す人、爆発にも気が付かずにのろのろと歩きながらゲームをやる人。
人々が歩く先には砂からいくつもの黒い金属部品が見えていた。
ドゴォォオオオオン。
また誰かがミサイルで空高く突き上げられ体が粉々に散った。
ドゴォォオオオオン。
人々は画面に夢中で誰も気にしない。
真剣な表情で顔に汗を垂らしながら画面を指でなぞりながら歩いた。
ドゴォォオオオオン。
ドゴォォオオオオン。
ドゴォォオオオオン。
いくつもの体が空中で分散され、砂の上に肉片がボトボトと落ちた。
肘から切れた女性の手の中にはスマホがしっかりと握られていた。
スタート地点の灰色の長方形のマークよりも後ろに、いくつもの千切れた腕や脚や内臓が転がった。
ドゴォォオオオオン。
髪を刈り上げた黒いタイトなTシャツに白いコットンパンツを履きセカンドバックを持った色黒の男は、ミサイルに突き上げられ、空高くに舞い上がっても画面から目を離さなかった。
青年が爆発音に気が付きヘリコプターまでもう少しのところで、画面から目を離し後ろを振り返った。
自分以外誰もいないことに気が付き、早くヘリコプターに辿りつこうと一歩足を出すと金属音がした。
青年はヘリコプターの操縦士に手を振って助けを求める。
青年を残し、ヘリコプターは空に向かって飛び立った。
ヘリコプターが空高く舞い上がった時、最後の爆発が起きた。
操縦士はコックピットから下を覗き、平行に並ぶ2つの灰色の長方形と千切れた肉片でできた英文字を見た。