男は皆、イイ奴だけど馬鹿で不誠実で下品で面倒臭い生き物だと思っている。
もちろん僕もだ。
なので、よく知らない男が調子コイて何か言っているのを見ていると、何を言っているのか耳に入ってこない代わりに、その滑稽な様がコメディー映画の冒頭シーンのように僕をワクワクさせる。
ワクワクしながら僕は社会人なので「なるほどですねぇ」と激しくうなずく。
きっと社会人なので上手にできているはずだ。
僕達はなぜ馬鹿で不誠実で下品で面倒臭い生き物なのかについてじっくりと考えてみる。
もちろん、僕自身がそういう生き物なので一向に答えは見つからない。
難しい顔をしながらラーメンと女の子のことを考えているのだ。
空を眺めても「青いな」か「月がすげぇな」くらいしか考えていない。
僕が知る限り、女の人は自意識過剰のわりにはやや卑屈でやや被害妄想気味で鈍臭くて要領悪くて優先順位間違えがちの人が多いけど、大抵の人は愛情深くて優しいのでそんなことは大した問題じゃない。
大した問題ではないので女性はみんなハツラツと生きてほしい。
男なんかに囚われているなんで馬鹿げた話だ。
恋人に対して必要以上に気を使って無理してそうな人が多い。
強靭な強迫観念の持ち主なのか、あるいは何か弱みを握れているに違いない。
「人から嫌われたくない」「面倒臭い思いしたくない」という自己愛は理解できるけど、そんな無理は長続きしないし、心身に良くないと思う。
泣かすことしない限り、好きにやりゃいいじゃんって強く思うよ。
僕の知る限り、義務や習慣で恋人と会うカップルはゆくゆくは不仲になるか別れるか離婚する。
男の方が彼女と会う義務に対して罰ゲームみたいにストレスを抱えているのは学生から何百回も見てきた。
人生は超ファストで超ショートらしいので、仕事以外の時間をドキドキやワクワク以外に使うなんて超謎。
商業複合施設を歩くカップル達の多くが誰も彼もが退屈そうな顔しているのはなぜなのだろうか。
大抵の場合、男の方は内田篤人みたいな髪形をしている。
不自然さや疲労感や倦怠感がクリスマスを彩っている。
大人の恋愛は愛情と人間臭さのぶつかり合いで、カッコ悪く下手くそでも、ギラギラして胸躍るキャーって感じなはずなのに。
僕が90年代のトレンディードラマを盲信し過ぎているだけかもしれない。
歩きながら「あの男、退屈してる」「ほら、あいつも退屈してる」とキョロキョロしていると、弟に「そういうのやめなよ」と言われた。
弟は「彼女がいる」というのがステータスだと思っているガキなので、退屈な時間を耐え忍んでいるマゾヒストを探す楽しみを理解できないようだ。
今度離婚する友達がこう言った。
「俺 is Back!」
拍手したよ。
それで楽しくなるなら絶対にそうしたほうがいい。
ある冬の間だけバイトしていた居酒屋の店長のことを思い出した。
その人はお笑い芸人をやりながら居酒屋の店長をやっていた。
全く売れていなかったらしいけど、一語一句の切り替えしや間に衝撃を受けたことを覚えている。
プロは違うなと思った。
下ネタも決して下品ではなくブラックジョークもギリギリのところを攻めてきた。
他のバイトからは異常に嫌われていたけれど、僕はその人が好きだった。
どいつもこいつもつまんねぇことばっか言って脳死してんじゃねぇのか。とイライラしていた年頃だったので、その人との出会いは衝撃だった。
世の中には面白い人がたくさんいるんだなと知った。
店長とだけ仲が良い僕も、もちろん他のバイトからは嫌われていた。
店に一度だけ店長の奥さんが来たことがあった。
三度見してしまうくらい、とんでもない美人だったことを今でも鮮明に覚えている。
全く笑わずに皮肉とブラックジョークばっかり言う店長が、だらしない笑顔になったのが印象的だった。
その居酒屋はとっくに潰れて今は金の蔵になっている。
あれから一度も店長をテレビなどで観ていないので、もうお笑い芸人はやめてしまったのかもしれない。
でもきっと今でもどこかで全く笑わずにブラックジョークを言っているはずだ。
そして、今でもあの美人な奥さんが店長の隣でクスクスと笑っているはずだ。
そうであってほしい。