「97歳の誕生日なんて全然おめでたくないわ!あなたは90歳以上生きちゃダメよ!」
エルゼおばあちゃんは、初めて写真家のハンナ・レンズに会った時、笑いながらそう言いました。
初めて会ったその日はエルゼおばあちゃんが97歳の誕生日から数日過ぎた日のことでした。
それからハンナはいつもエルゼおばあちゃんの家に遊びに行き、エルゼおばあちゃんの写真を撮っていたら、あっという間に3年が過ぎ、エルゼおばあちゃんはついに100歳を超えてしまいました。
エルゼおばあちゃんはコペンハーゲンに続くデンマーク第2の都市オーフスの古い古いアパートの5階、2DKの部屋に58年間住み続けています。
年に数回ある検査入院以外はこの部屋で生活し、身の回りのことは全て自分でやります。
エルゼおばあちゃんの家族や過去の出来事については、ハンナと二人だけの秘密です。
エルゼおばあちゃんは一日の多くの時間をお気に入りである窓際の椅子に座りながら考え事をしたり、居眠りをしたりしています。
最近、とても目が悪くなってしまい、今な亡き隣人から貰った巨大な拡大鏡を使って読書をします。
耳も遠いのでラジオからは大音量で最新のニュースとクラシック音楽が流れています。
「私の人生はとても幸福だわ。けど、体が思うように動かせた時代が懐かしいわね」
エルゼおばあちゃんはお気に入りの椅子に座り、お茶を飲みながらそう言いました。